大学ではバイオサイエンス(生化学・有機化学など)、大学院ではマテリアルサイエンス(材料科学・生体材料など)を学び、ザナチュラルラボラトリー株式会社で約25年にわたり化粧品づくりに携わってきた服部珠美さん。スキンケア、ヘアケア、ボディケアといった基礎化粧品の処方設計から、工場での量産を見すえた工学的な視点まで。分業が進む大企業とは対照的に、「フォーミュレーター(化粧品開発者)」として、ものづくりの最初から最後までを一気通貫で見てきた人です。
肌を健やかに保つための処方設計というサイエンスと、香りやテクスチャーといった感性のデザイン。その両方を行き来しながら、「使う人がハッピーになる製品」をつくること。peace organicの多目的シャンプーも、そんな服部さんの視点と経験から生まれました。
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オーガニックと聞くと、多くの人は「成分」のことを思い浮かべると思います。オーガニック認証を受けた原料が、何パーセント入っているか。どんな植物由来の成分を使っているのか。もちろん、それも大切な要素です。でも、私の中でのオーガニックは、それだけでは語りきれません。
化粧品の開発って、すごく「総合科学」なんですね。生化学や有機化学の知識が必要なのはもちろん、皮膚科学や人体のメカニズム、工場で量産するための工学的な視点まで、いろんな分野がつながっている世界です。ただ、そこにもうひとつ大きなレイヤーとして乗ってくるのが「感性」です。香りの心地よさだったり、泡立ちやテクスチャーから伝わる気持ちよさだったり。数字やデータだけでは測れない部分をどう扱うかが、化粧品の面白さであり難しさでもあります。
だから私は、原料表だけを見て「これはオーガニックです」とは決して言い切れない感覚があります。現場で働く人にとって無理がないか、環境への負荷が過度になっていないか、そして何より、使う人の心と身体にとって本当にやさしいか。そういった「全体のバランス」も含めて、初めてオーガニックだと感じるんです。
鼻と目で「今」を集める
そのバランスをとるために、私は日々いろいろなところで「今」を観察しています。
たとえば電車の中。かなり変な人だと思われるかもしれませんが、私は人の匂いをよく嗅ぎます。もちろん露骨にではなく、空気感として、です。
年齢や性別、国によって、香りって全然違うんですよ。日本人だと発酵系の匂いをまとっていることが多かったり、イスラム圏の方だとスパイスやオイルのニュアンスが強かったり。生活の仕方や食文化が、そのまま「生活臭」として立ち上がってくる。
そういう匂いを、自分の中でカテゴリごとに整理して、ストックしていくんです。「あ、これは初めて出会う香りだな」と思ったら、その人のファッションやメイク、話している言語もさりげなくチェックします。自分の知らない組み合わせや新しい感性に出会ったなと感じたら、そこにフォーカスして、頭の中の引き出しに入れておく。
店頭でも同じです。売り場に行って、棚に並んでいるカラーや、プロモーションされている香りの傾向を見ます。パッケージの色と、どこの国の製造か。どんな人に向けたテイストなのか。
一方で、SNSや検索キーワードのボリュームもチェックします。どんなワードが伸びているのかをざっくり把握しておくだけでも、感覚とデータがつながるんですね。リアルとデジタルの両方から「今の空気」を掴んでおくと、処方を組む時の感度が変わってくる感覚があります。
「オーガニック」はひとつの定義に収まらない
オーガニックという言葉の扱いは、ここ20年くらいで本当に変わりました。昔よりも一般的な言葉になった分、意味もどんどん広がっています。認証団体ごとにルールや基準が違いますし、メーカーやブランドごとにも「自分たちなりのオーガニック観」があります。どこまでを許容するか、どこからは妥協しないか。その線引きは、思想や価値観によってかなり変わります。極端に言えば、オーガニックは「都合良く」解釈しようと思えばいくらでもできてしまう言葉なんです。だからこそ、一つの定義に収まるものではないし、収めてしまうべきでもないと感じています。
私自身にとってのオーガニックは、「いろんなところに無理がかかっていない状態」に近いです。製造現場で働く人にとっても、原料をつくる生産者にとっても、環境にとっても、そして使う人の肌や心にとっても、過度な負担や無理を強いていない。そういう状態を目指す製品づくりが、オーガニック化粧品であってほしいなと思っています。
「このブランドのオーガニックは、こうです」と言い切る必要
その一方で、「オーガニック」という言葉だけが一人歩きしてしまう危うさも感じています。成分がオーガニックだからいい、という時代ではもうないですよね。消費者の方も、そのあたりはもう十分に分かっていると思います。
だからこそ、ブランドごとに「私たちにとってのオーガニックはこういうものです」と、ちゃんと説明した方がいい。どこにこだわっているのか。どこまではあえて割り切っているのか。その考え方や背景を紐づけて、言葉と一緒に届けないと、「なんとなく良さそう」で終わってしまいます。
そういう意味で、peace organicのプロジェクトは、とても面白い例でした。自然環境や地域、生産者や消費者との関係性まで含めて、オーガニックを「有機的なつながり」として捉えようとしているからです。
ザナチュラルラボラトリー株式会社 服部珠美
















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